判決
令和7年12月17日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 令和7年(行ウ) 第10号 公文書開示請求却下処分取消請求事件 口頭弁論終結日: 令和7年10月14日
当事者
- 原告: 須部 和孝(浜松市中央区有玉北町2184番地)
- 被告: 岡山市(岡山市北区大供一丁目1番1号)
- 代表者兼処分行政庁: 岡山市長 大森 雅夫
- 被告訴訟代理人弁護士: (省略)
- 被告指定代理人: (省略)
主文
- 処分行政庁が原告に対し令和7年3月10日付け岡税管第614号をもってした公文書開示請求却下処分を取り消す。
- 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要等
1. 事案の概要
原告は、処分行政庁に対し、岡山市情報公開条例(以下「本件条例」という。)に基づいて令和7年2月12日付けで最新の地番図電子データ(シェープファイル形式に限る)の開示を求める公文書開示請求(以下「本件請求」という。)をしたところ、処分行政庁は、電磁的記録の開示方法は本件条例第13条第1項及び岡山市情報公開条例施行規則(以下「本件規則」という。)第6条第2項により紙に出力してすることが定められているため、これに適合する方法に補正するよう求め、原告がこれに応じなかったため本件請求を却下する処分(以下「本件処分」という。)をした。
本件は、原告が被告に対し、本件処分には、①公文書開示請求に対する応答として、本件条例上、却下処分が定められていないにもかかわらず、本件請求を却下した手続上の違法、②本件条例は、電磁的記録である公文書の開示につき、その種別、技術の進展状況等を勘案して行うとしているところ、地番図電子データという公文書を、その性質に最も適合した電子的形態で提供するべき義務があるのにこれを怠り、電磁的記録の開示は紙への出力に限られるとする本件規則を硬直的に解釈適用して、本件請求を却下した実体上の違法があるとして、その取消しを求める事案である。
2 関係法令の定め
(1) 本件条例(甲3)
第1条(目的)
この条例は、地方自治の本旨にのっとり、本市の有する公文書の開示を請求する権利を定めること等総合的情報公開制度の推進に必要な事項を定めることにより、市民の知る権利を保障するとともに、本市の行う諸活動を市民に説明する責務を全うし、もって市民の市政への積極的な参加による市政の民主的発展に寄与することを目的とする。
第2条(定義)
第2号 公文書
実施機関の職員(本市が設立した地方独立行政法人の役員を含む。以下同じ。)が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真、フィルム、テープ及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作成された記録をいう。以下同じ。)であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるもの(省略)を除く。 +1
第3条(開示請求権) 第1項 何人も、この条例の定めるところにより、実施機関に対し、当該実施機関の保有する公文書の開示を請求することができる。 +1
第4条(開示請求の手続)
第1項
第3条第1項の規定による開示の請求(以下「開示請求」という。)は、次に掲げる事項を記載した書面(以下「開示請求書」という。)を実施機関に提出してしなければならない。ただし、実施機関がこの方法によりがたいと認める場合には、この限りでない。
(1) 開示請求をする者の氏名(法人その他の団体にあってはその名称及び代表者の氏名)
(2) 開示請求をする者の住所(法人その他の団体にあっては事務所又は事業所の所在地)
(3) 公文書の名称その他開示請求に係る公文書を特定するに足りる事項
(4) 希望する開示方法
(5) 前各号に掲げるもののほか、規則で定める事項
第4項 実施機関は、開示請求に形式上の不備があると認めるときは、開示請求をしたもの(以下「開示請求者」という。)に対し、相当の期間を定めて、補正を求めることができる。この場合において、実施機関は、開示請求者に対し、補正の参考となる情報を提供するよう努めなければならない。
第5条(公文書の開示義務)
実施機関は、開示請求があったときは、開示請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「非開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該公文書を開示しなければならない。 各号(略)
第6条(公文書の一部開示)
実施機関は、開示請求に係る公文書の一部に非開示情報が記録されている場合において、非開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができ、かつ、区分して除くことにより当該請求の趣旨が損なわれていないと認めるときは、開示請求者に対し、当該非開示部分を除いた部分につき開示しなければならない。
第9条(開示請求に対する決定等)
第1項
実施機関は、開示請求に係る公文書の全部又は一部を開示するときは、その旨を決定し、開示請求者に対し、その旨及び規則で定める事項を書面により通知しなければならない。
第2項
実施機関は、開示請求に係る公文書の全部を開示しないとき(開示請求に係る公文書を保有していないとき及び開示請求に係る文書が公文書以外の文書であるとき並びに第8条の規定により請求を拒否するときを含む。)は、開示しない旨の決定をし、開示請求者に対し、その旨を書面により通知しなければならない。
第10条(理由付記等)
第1項
実施機関は、前条第1項又は第2項の規定により、開示請求に係る公文書の全部又は一部を開示しないときは、開示請求者に対し、当該非開示決定又は一部開示決定の通知において、その理由を示さなければならない。この場合において、当該理由は、当該通知の内容から一般人が容易に理解し得るものでなければならない。 +1
第13条(開示の実施)
第1項
実施機関は、開示請求者の求めるところにより公文書を開示する場合には、文書、図画又は写真については、閲覧又は写しの交付により、フィルム、テープ及び電磁的記録についてはその種別、技術の進展状況等を勘案して規則で定める方法により行う。
(2) 本件規則(甲4)
第1条(趣旨)
この規則は、本件条例の施行に関し、必要な事項を定めるものとする。
第6条(閲覧の方法等)
第1項
条例第13条第1項の規定による公文書の開示は、実施機関が指定する日時及び場所において行うものとする。
第2項
フィルム、テープ及び電磁的記録については、指定の場所で、紙に出力し、若しくは採録したものを閲覧に供し、又は視聴することにより行うものとする。
(3) 岡山市情報公開及び個人情報保護に関する事務取扱要綱(以下「本件要綱」という。乙1)
第7条(請求の却下)
公文書の開示請求(中略)が公開条例(中略)に規定する要件を満たさず、請求者が補正に応じない等の理由により開示請求を却下する場合は、開示請求却下通知書(中略)により通知する。
3. 認定事実(当事者間に争いがないか、後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 本件請求
原告は、令和7年2月12日、処分行政庁に対し、岡山市全域の最新の地番図電子データ(シェープファイル形式に限る。)の開示を求める本件請求をした。
(2) 本件処分
処分行政庁は、令和7年3月10日、「電磁的記録の開示方法は、岡山市情報公開条例第13条第1項及び岡山市情報公開条例施行規則第6条第2項により、紙に出力し開示することが定められていますが、請求人は地番図電子データ(シェープファイルに限る)による開示を請求しました。同条例及び同規則に適合する開示方法による開示請求に補正するよう求めましたが、請求人は補正に応じない意思を示したため、本件開示請求を却下します。」として、本件請求を却下する旨の本件処分をし、その頃、開示請求却下通知書(岡税管第614号)をもって、原告に通知をした。
(3) 訴訟提起
原告は、令和7年6月24日、本件訴訟を提起した(顕著な事実)。
4. 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 争点
① 本件処分の手続上の違法の有無(本件請求を却下したことが、本件条例に定めがない処分として手続上違法であるか)(争点①) ② 本件処分の実体上の違法の有無(公文書である地番図電子データにつき、本件規則上、紙に出力して開示する以外の方法では開示できないとして、本件請求を却下した処分行政庁の判断に、本件条例の解釈適用を誤った等の違法があるか)(争点②)
(2) 争点①に関する当事者の主張
- ア 原告の主張
本件条例第9条は、公文書開示請求に対する応答として、全部開示、一部開示、非開示の3つの決定しか定めておらず、処分行政庁が行った「却下」処分は、条例に根拠のない独自の処分類型であるから、その形式において手続上の重大かつ明白な違法がある。仮に、原告の求めたシェープファイル形式での開示が不可能であると被告が判断したのであれば、非開示決定をし、その理由を付記する必要があった。 - イ 被告の主張
否認ないし争う。本件条例第9条第2項に定める開示をしない旨の決定には、非開示決定のみならず、存否の応答を拒否する決定や本件のような却下決定も含むものであり、この点については、本件条例第4条第4項前段において、開示請求に形式上の不備があると認める場合に補正を求めることができると定めていることからしても明らかである。(中略)本件要綱第7条において、公文書の開示請求が要件を満たさず、請求者が補正に応じない等の理由により開示請求を却下する場合には、開示請求却下通知書により通知すると定められており、本件処分に手続上の違法はない。
(3) 争点②に関する当事者の主張
- ア 原告の主張 本件請求の対象は地番図シェープファイルデータであり、当該データと、これを単に紙に出力したにすぎない紙媒体による地番図とでは、その記録されている情報の内容、質、量が全く異なるから、これらは相互に代替性のない別個の公文書と評価されるべきものである。 本件条例第13条第1項は、開示方法決定の枠組みと行政裁量を行使する上での基準を示したものであり、処分行政庁は、本件条例第13条第1項の趣旨に則り、電磁的記録についてはその種別の特性又は技術の進展状況を勘案した結果として、地番図シェープファイルデータという公文書をその性質に最も適合した電磁的形態で提供する方法を選択する裁量権を有しており、またそうすべき義務を負っている。 処分行政庁が本件規則の定めに従って紙での出力による開示しか選択肢がないという硬直した解釈に固執し、地番図シェープファイルデータを開示せず、本件請求を却下した判断には、本件条例の趣旨を没却する違法な解釈適用と裁量権の逸脱・濫用がある。
- イ 被告の主張 本件条例第13条第1項の文言によれば、本件条例は第2条第2号で定義する公文書に当たる電磁的記録の開示方法について、本件規則に委任していることは明らかである。その上で、「その種別、技術の進展状況等を勘案して」との文言から直ちに本件規則で定める開示方法の内容の裁量の範囲が限定されるものとは解されないから、処分行政庁が、本件条例第13条第1項の規定に基づき、種別ごとの開示方法を本件規則で定めるにあたっては、本件条例で創設した開示請求権を実質的に損なわせるようなものでない限り、広範な裁量権を有している。 そして、本件規則第6条第2項は、電磁的記録の開示方法について紙に出力して行うことと定めているところ、この規定は、電磁的記録には編集履歴やログ等が存在し、これらの情報には被告内部での検討段階での機密情報や個人情報などが含まれている可能性が高く、それらを適切かつ確実に非開示とする処理を行う上で、技術的な問題や人的物的コストの問題が伴うことから定められているものである。したがって、上記規定は十分な合理性を有するものである。 他方で、原告は、本件処分によって地番図シェープファイルをデータとして取得することができなかったに過ぎず、紙媒体に出力した形でその情報を取得することは可能であったのだから、原告の公文書開示請求権については、実質的に見てその権利が損なわれているものでもない。
第3 当裁判所の判断
1. 当裁判所の判断の要旨 当裁判所は、公文書である電磁的記録の開示につき、本件条例によって規則により開示方法を定めることを委任された処分行政庁において、本件規則上、その開示方法を「紙に出力し、若しくは採録したものを閲覧に供し、又は視聴することにより行う」ことを定めるにとどまり、紙への出力以外に電磁的記録を開示する方法を定めていない点で、本件条例の委任の趣旨に反する違法があり、したがって、本件処分は取り消されるべきと判断する。以下、その理由を判示する。
2. 理由 (1) 本件条例は、第2条第2号において、開示対象となる公文書として電磁的記録を掲げ、第3条第1項により何人も公文書の開示を請求することができる旨を定めた上、その開示の方法につき、第13条第1項において「フィルム、テープ及び電磁的記録についてはその種別、技術の進展状況等を勘案して規則で定める方法により行う」ものとして、規則(処分行政庁)に委任している。 即ち、本件条例は、実施機関の職員が職務上作成した公文書たる電磁的記録があるときは、当該電磁的記録の開示を請求できるものとし、その開示の具体的な方法を処分行政庁に委任しているのであって、公文書たる電磁的記録の開示請求がされた場合、開示対象となるのはあくまで当該請求にかかる電磁的記録である。そして、本件規則第6条第2項が定める紙に出力する方法は、電磁的記録を開示する方法の一つではあるものの、電磁的記録は、人の知覚によっては認識することができない方式で作成されたものであるために、これを紙に出力した場合、直ちに当該電磁的記録の情報が余すことなく出力されるわけではなく、本件請求の対象である地番図電子データ(シェープファイルデータ)についても、紙に出力された地番図ではシェープファイルデータ上に付与されている座標値情報が数値として表示されなくなることが認められ(乙2)、開示方法を紙への出力のみとした場合、紙に出力されない情報も公文書たる電磁的記録の一部であるにもかかわらず、当該情報が開示されないことになる。
しかるところ、本件条例は、公文書たる電磁的記録を開示するものとした上、その具体的方法の定めを規則(処分行政庁)に委任したに過ぎず、公文書たる電磁的記録を開示する方法を定めないこと、あるいは、その一部であっても開示できない方法のみを定めることは、原則として本件条例の委任の趣旨に反するというべきである。ただし、本件条例第13条第1項は、開示方法を「その種別、技術の進展状況等を勘案して規則で定める」ことを委任するものであるため、技術上の理由等により実施困難な開示方法を定めることまでを求めるものとは解されず、したがって、紙への出力以外の方法により公文書たる電磁的記録を開示することが、技術上の理由等により実施困難であるならば、紙への出力以外の開示方法を定めないことも、本件条例の委任の趣旨に反しないといえる。
(2) そこで、この点について検討すると、公文書たる電磁的記録を紙に出力するのではなく、データを複製して開示(交付)すること自体が技術的に可能であることは明らかであり、現に、本件請求対象と同種の地番図電子データ等につき、当該データをCD-Rに複写するなどの方法により開示している地方公共団体が多数あることが認められる(甲5の1~4)。 また、被告は、電磁的記録には編集履歴やログ等が存在し、それらの情報には被告内部での検討段階での機密情報や個人情報等が含まれている可能性が高く、それらの情報を適切かつ確実に非開示とする処理を行う上で、技術的な問題や人的物的コストの問題が伴う旨を主張し、そのことを理由として、紙に出力する以外の開示方法を定めていないことが、本件条例の委任の趣旨に反しないと主張するものと解される。しかし、電磁的記録に編集履歴やログが存在し得ることは当然であるとしても、それらが直ちに非開示情報である個人情報(本件条例第5条第1号)や機密情報(同条第3号、第4号)、法人情報(同条第2号)に該当するわけではなく、開示請求の対象とされた公文書につき、非開示情報が記録されているかどうかを精査することは、当該公文書が電磁的記録であるか文書その他の形式であるかにかかわらず必要になるものである。そして、電磁的記録一般につき、その精査に直ちに技術的問題や多大なコストを要するとは考えられず、被告は、特異な拡張子が用いられている電磁的記録については、それを開くために実施機関が通常備えていない専門ソフトやツールを導入しなければならず、非開示情報該当性の検証が困難であるとも主張するが、被告が業務上作成・入手した電磁的記録を被告が開けないというのは、通常考え難い上、仮に、一部そのような電磁的記録が存在するとしても、そのことを理由として、電磁的記録一般につき、紙への出力のみを開示方法として定めてそれ以外の開示方法を定めず、紙に出力されない電磁的記録が開示されない事態を招くことが、本件条例の委任の趣旨に反しないということはできない。
(3) 以上によれば、処分行政庁が、公文書たる電磁的記録の開示方法として、紙への出力のみを定め、複製等その他の開示方法を定めていないことは、紙に出力されない電磁的記録を開示する方法を定めていないものとして、本件条例の委任の趣旨に反するものということができる。
3. 結論 前記2判示のとおり、処分行政庁が公文書たる電磁的記録の開示方法として、紙に出力する以外の方法を定めていないことは、本件条例の委任の趣旨に反する違法があると認められ、したがって、地番図電子データのシェープファイルによる開示を求める本件請求につき、紙に出力する方法による開示請求ではないことを理由にこれを却下した本件処分も違法であることを免れない。 よって、本件処分を取り消すこととして、主文のとおり判決する。
岡山地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官 森實 有紀 裁判官 溝口 優 裁判官 田尻 駿
(正本写しに関する記載 省略)










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