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地図データを、誰もが使える社会の基盤へ。無料WebGIS「地図ポスト」

地図ポストと公共データ

地番図や地図データを、社会の公器として広く役立てる。

公共のために整備された情報を、必要とする人が手に入れ、自分の仕事に生かせるようにする。無料のWebGIS「地図ポスト」は、そんな環境を広げている取り組みです。

静岡県の個人土地家屋調査士事務所が、「地図ポスト」を通じて、全国各地の地番図データを使いやすい形に整え、無料で公開しています。

登記所備付地図のデータを扱いやすくするところから始まり、自治体が保有する地番図の収集と公開へ。そして、集まった情報を、普段使っている測量ソフトやGISへ持ち込める仕組みへと、活動を広げてきました。

地図を開き、土地を選び、必要なデータを取り出す。

その操作の向こう側には、公開を求め続けた土地家屋調査士がいます。公開の可否に向き合い、判断を引き受けた行政の担当者がいます。そして、使える状態を保つために、時間と費用を負担している人がいます。

地図ポストを紹介するうえで伝えたいのは、その機能とともに、いまの利用環境をつくってきた人たちの仕事です。

地番と位置がつながることで、仕事が変わる

土地には、一筆ごとに「地番」という番号が付いています。土地の登記情報や資料を扱うとき、この番号が手がかりになります。

ところが、地番が分かっていても、一般的な住所検索だけでは、その土地の位置を把握しにくいことがあります。畑や山林などでは、特にそうした場面があります。

登記所備付地図のデータ公開は、土地の情報を扱う環境に大きな変化をもたらしました。地番と図形を、GISという、位置に結び付いた情報を重ねて扱う仕組みの中で利用できるようになったからです。

ただ、登記所地図には、そのままでは一般の地図上に位置を合わせられないものもあります。公開されたデータだけで、すべての地域を同じように扱えるわけではありませんでした。

その隙間を補う情報として、活用が広がったのが自治体の地番図です。

自治体が行政の仕事のために整備してきた地番図には、土地の番号と位置、形状を結び付けたGISデータがあります。これを使えば、周辺の道路や航空写真と照らし合わせながら、土地の配置を把握しやすくなります。

さらに、必要な土地の情報を取り出し、手元の調査資料と重ねたり、検討図や説明資料に利用したりできます。

「何番の土地か」という情報を、位置や形状と一緒に、自分の仕事で使えるようになる。

地番図のGISデータには、こうした実務につながる価値があります。

浜松から広がった、データを求める動き

地番図は、窓口などで紙に印刷して交付を受ける形が中心でした。自治体の内部ではGISデータとして管理されていても、利用者が受け取るのは紙の図面という状況です。

そこで、浜松から始まったのが、自治体の保有する地番図のGISデータを、情報公開請求によって取得する取り組みでした。

求めたのは、土地の番号、位置、形状を保ったまま、ほかの情報と組み合わせて使えるデータです。

航空写真と重ねる。必要な土地だけを取り出す。手元の資料と比較する。

実際に使うことで、その便利さが伝わっていきました。自分の地域でも使いたいという関心が生まれ、GISデータの魅力とともに、情報公開請求の動きも各地へ広がっていきます。

同じ時期に、地番図のオープンデータ化を検討する自治体も増え始めました。

一つの地域で得られた成果が、別の地域で行動する人の手がかりになる。情報を求める動きは、そのようにつながっていきました。

公開までに立ちはだかった、二つの壁

公開までの道のりは、平坦ではありませんでした。

一つは、個人情報や税務上の秘密をめぐる問題です。地番図は固定資産税の課税事務などに使われるため、その情報を外部へ提供することに慎重な判断もありました。

この問題に関する重要な先例が、西宮市の地番図データ公開事件です。

2009年9月10日の大阪高裁判決では、対象となった土地の区画、位置、形状などについて、不動産登記制度が公開を予定している情報であり、税務上の秘密には当たらないと判断しました。また、土地の位置や形状に関する情報は、同市の条例が保護する非公開の個人情報にも当たらないとしています。西宮市地番図データ公開事件の判決文

何を保護し、何を公開できるのか。公開を求める側には、こうした判例や情報の性質を踏まえ、自治体と確認を重ねる仕事がありました。

もう一つは、電子データでの開示を求めても、紙への出力でしか交付しないという取扱いです。

この問題が争われたのが、岡山市の地番図電子データをめぐる訴訟でした。

2025年12月17日の岡山地裁判決は、地番図の電子データを紙へ出力すると、データに付与されている座標値が数値として表示されなくなる点を指摘しています。

これを紙に出力した場合、直ちに当該電磁的記録の情報が余すことなく出力されるわけではなく、本件請求の対象である地番図電子データ (シェープファイルデータ)についても、紙に出力された地番図ではシェープファイルデータ上に付与されている座標値情報が数値として表示されなくなることが認められ(乙2)、開示方法を紙への出力のみとした場合、紙に出力されない情報も公文書たる電磁的記録の一部であるにもかかわらず、当該情報が開示されないことになる。
しかるところ、本件条例は、公文書たる電磁的記録を開示するものとした上、その具体的方法の定めを規則(処分行政庁) に委任したに過ぎず、公文書たる電磁的記録を開示する方法を定めないこと、あるいは、その一部であっても開示できない方法のみを定めることは、原則として本件条例の委任の趣旨に反するというべきである。

紙の図面を渡すだけでは、請求された電子データに含まれる情報の一部が開示されないことになります。

裁判所は、同市の条例のもとで、紙への出力以外の開示方法を定めない取扱いが条例の趣旨に反すると判断し、電子データでの開示を求めた請求を却下した処分を取り消しました。岡山地裁判決・10~12頁

座標を持つデータには、ほかの地図と重ね、必要な範囲を取り出し、別のソフトへ渡せる価値があります。

その価値を、データのまま受け取れるようにするために、情報公開請求を行い、必要な場面では訴訟によって取扱いを問い直してきた土地家屋調査士がいました。

一人が向き合った課題から、次に請求する人も根拠にできる判断が残されたのです。

詳しい経緯は、地番図電子データの情報公開と岡山地裁判決を紹介した記事でも取り上げています。

公開されたデータを、使える形で届ける

取得の道が開けても、データを誰もがすぐに使いこなせるわけではありません。

どのソフトで開くのか。座標系をどう設定するのか。必要な土地をどう取り出すのか。測量ソフトへ渡すには、どの形式に変換すればよいのか。

取得した後にも、知識と時間を必要とする準備が残っています。

この負担を減らし、データと実務をつないでいるのが、地図ポストです。

地図上で必要な土地を選び、SIMA、DXF、GeoJSONなどの形式で出力する。普段使っている測量ソフトやCAD、GISへ、用途に合った形で情報を持ち込めます。地図ポストの利用案内

利用者は、形式や変換方法を一から調べる負担を減らし、調査や検討に取りかかりやすくなります。

地図ポストは、法務省の登記所備付地図と市町村地番図を一筆地検索し、選択した土地をJWW・DXF・SIMA・CSV・KML・GeoJSONへ登録不要で出力できるWebGISです。
航空写真との重ね図・面積一覧表のPDF印刷、街区基準点・電子基準点・図根多角点等の確認にも対応します。

資料の作成目的や精度を踏まえて扱うことは、実務の基本です。その専門的な判断に取りかかるまでの準備を、共通の仕組みが支えてくれます。

公開されたデータを使いやすく整えることが、活用する人を増やし、次の工夫を生むことにつながっています。

無料という入口と、非営利という約束

地番図の利用が広がるなか、有料化へ進むWebGISもあります。

データの整備、機能の開発、安定した運用には費用がかかります。オープンデータを活用した商用サービスも、その価値を社会へ届ける大切な担い手です。

一方で、使い始める前に費用が必要になると、自分の仕事に役立つか分からない段階で、利用をためらう人もいます。

地図ポストは、地番図の閲覧から実務で使うためのデータ出力まで、無料で利用できる入口を開いています。

SIMAなどへの形式変換も、その入口の一つです。GISに詳しくなくても、使い慣れた測量ソフトに取り込み、仕事での使い道を確かめられます。

事務所の規模や経験にかかわらず、まず使ってみることができる。その機会を広く届けることが、GISを身近にしていきます。

地図ポストは、公共データを社会に開く非営利の運営方針を掲げています。地図ポストの運営方針

その方針が公開の実現につながった具体例が、東京23区の地番図です。非営利での運営を前提として二次利用の許可を確認し、公開が実現しています。

ここには、提供する側との信頼関係があります。

公開を求めた人の向こう側には、前例の乏しい情報公開に向き合った行政の担当者たちがいます。個人情報の扱いや提供方法を確かめ、公共の利益につながる公開のあり方を考え、判断を引き受けてきた人たちです。

私たちがデータと一緒に受け取っているのは、公開までに積み重ねられた信頼でもあります。

非営利運営を前提とした公開の約束を守ること。そして、利用する側も、それぞれのデータの利用条件を尊重すること。

その積み重ねが、これから公開を検討する自治体にとっても、安心して一歩を踏み出せる環境につながります。

無料を支える仕事が、誰かの時間を生み出す

無料で使えるものにも、それを動かすための負担があります。

資料を集め、利用条件を確認し、データを整理する。機能を開発し、サーバーを維持する。情報が変われば更新し、不具合があれば原因を調べる。

利用する側の画面には、その時間も手間も映りません。しかし、その仕事があるからこそ、必要なときにデータを使えます。

共通の仕組みが整えば、多くの事務所が同じ準備を繰り返す負担を減らせます。そこで生まれた時間を、現地の確認、資料の比較検討、依頼者への説明に充てることができます。

一人が引き受けた仕事が、その人の知らない場所で、別の誰かの仕事を支えている。

そして、その先には、丁寧な調査や説明を受けられる依頼者がいます。

地図ポストを支える仕事の価値は、画面の中で完結しません。利用する人の仕事を通じて、地域や社会へ届いていきます。

個人の行動が、次の当たり前をつくる

地番図データの公開は、全国で同じように進んでいるわけではありません。

自治体によって公開状況や提供方法、利用条件は異なります。全国の自治体が地番図をオープンデータとして提供する環境を目指し、取り組みは今も続いています。

組織として方針をまとめるには、調整や時間が必要になることがあります。その決定を待たずに、一人の実務者が必要性を感じ、行動を起こし、得られた成果を社会へ届けることもできます。

情報化社会では、個人が得た知識やデータ、作った仕組みを、全国の人と共有できます。一人の行動が次の人の負担を減らし、別の地域の取組へとつながっていきます。

地図ポストと、その背景にある地番図公開の活動は、その具体的な実例です。

土地家屋調査士がGISを当たり前に使える環境は、こうした行動の積み重ねによって、少しずつ形になっています。

受け取ったものを、次の人へ

この無料の基盤を、これからも使える場所として育てていくために、利用する私たちにもできることがあります。

実務で役立った使い方を、同業者に伝える。初めて触れる人に、操作を一つ教える。気づいた不具合を、状況が分かる形で知らせる。データの出典や利用条件を大切にする。

大きなことを一度に引き受けなくても、協力する方法はあります。

誰かに教わって助かった経験があれば、今度は自分が次の人に伝える。そうして知見が受け渡されることで、業界全体の技術も育っていきます。

私たちの業界には、得られた知見を次の人へつなぎ、全体を底上げしていく文化があると信じています。

地図ポストも、その思いを分かち合える場所であり続けてほしいと思います。

運営する人が引き受けている大きな負担に、利用する一人ひとりの良心と、少しずつの協力を重ねていく。公開に向き合った人たちの仕事を大切にしながら、使う側も、その先を支えていく。

それが、無料で使える価値を、次の人へ届けることにつながります。

地番図や地図データを、社会の公器として、必要な人の手へ。

公開を求めた人がいて、公開を決断した人がいて、使える形に整えた人がいる。

その続きを、私たちの小さな協力でつないでいけたらと思います。


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